コラム-しっぽの向くまま

言葉にしていないのに、銀太は知っている|柴犬と過ごして気づいたこと

※ 今回のコラムは、しばごろうの妻が書きました。いつもと少し違う目線で、銀太のことをお届けします。

銀太は、わたしが泣く前から知っている。

そんなことに気づいたのは、ある夜のことだった。

仕事でうまくいかないことが続いて、気持ちが重くなっていた。

誰にも話していなかった。

夫にも、もちろん言葉には出していなかった。

ただ、静かにリビングのソファに座っていただけだ。

そこへ銀太がやってきた。

いつもはこちらが呼んでも来ないくせに、その日は何も言っていないのにそっとそばに来た。

膝の上に乗るわけでもなく、じゃれてくるわけでもなく、ただ足元に座って、静かにわたしの方を向いていた。

何も言わなかった。銀太も、わたしも。

でも、その時間がなんだかとても温かかった。

普段の銀太は、そんなに甘えない

誤解のないように書いておくと、普段の銀太は決してべったりな犬ではない。

呼んでも来ないことの方が多い。撫でようとすると絶妙なタイミングでかわす。

抱っこは3秒で終わる。こちらが関わろうとすると、さっと距離を取る。

夫がよく「柴距離」と言っているあれだ。

だから、あの夜のことが余計に印象に残っている。

何もしていないのに来た。何も言っていないのに来た。

まるでわたしの中の何かを感じ取ったかのように、そっとそばに来た。

あれはいったい何だったのだろう、とずっと考えている。

同じことが、何度もあった

あの夜だけの話かと思ったら、そうじゃなかった。

体調が悪くて早めに横になった日。

気分が落ちて何もしたくなかった日。

家族のことで心配ごとがあって、うまく気持ちを整理できなかった日。

そういうとき、銀太はいつもより近くにいる。

いつもより視線をよこしてくる。いつもより静かにそばにいる。

いつもより長く、同じ場所に留まっている。

わたしが元気なときの銀太は、だいたい自分の好きな場所で寝ている。

でも、わたしが落ち込んでいるときの銀太は、なぜかわたしのそばを選ぶ。

偶然にしては、多すぎる。

犬はどうやって感情を読み取るのか

気になって少し調べてみた。

犬は人間の表情・声のトーン・体の動き・さらには体臭の変化までを感じ取ることができるという。

ストレスを感じているとき、人間の体からはわずかにホルモンの変化が起きる。

それを犬の鋭い嗅覚が察知している可能性があるという話もある。

つまり銀太は、わたしが「何かいつもと違う」ということを、鼻や目や耳を使って感じ取っているのかもしれない。

でも、そういう科学的な説明よりも、わたしが実感していることの方が大きい。

銀太はたぶん、わたしのことをずっと見ている。

毎日一緒にいる中で、わたしの「普通」を知っている。

だからこそ「普通じゃない日」に気づく。言葉じゃなくて、存在で感じ取っている。

言葉がいらない時間のこと

人間同士の関係では、「言葉で伝えること」がとても大切だと思っている。

でも、銀太といる時間は少し違う。言葉を使わなくていい。説明しなくていい。

ただそこにいるだけで、何かが伝わる。何かが届く。

落ち込んでいるとき、誰かに「大丈夫?」と聞かれると、つい「大丈夫」と答えてしまう。

でも銀太は聞かない。ただそばにいる。その方がかえって、楽になることがある。

「言葉にしなくていい存在」が身近にいることの大切さを、銀太が教えてくれた気がしている。

まとめに代えて

今日も銀太はわたしのそばにいる。

元気な日も、そうじゃない日も。言葉を交わすわけでもなく、特別なことをするわけでもなく。ただ、同じ空間にいる。

それだけのことが、どれほどありがたいか。

銀太はたぶん、わたしのことを「守ろう」とか「励まそう」とか思っていない。

そんな大げさなことじゃなく、ただ「なんかいつもと違う」と感じて、近くにいてくれているだけだ。

でもそれが、わたしには十分すぎるくらいだった。

言葉にしていないのに、銀太は知っている。それだけで、今日も生きていける気がする。

(このコラムは、しばごろうの妻が書きました。
 銀太のことを観察し続けているうちに、
 気づいたら毎回泣きそうになっています。)

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