
銀太のヒコーキ耳を、はじめて見たのはいつだったか。
迎えてから数週間のころだったと思う。
仕事から帰ってきたわたしを見て、銀太の耳がぺたんと横に倒れた。
凛々しく立っていたあの耳が、飛行機の翼のように左右に広がった。
あの瞬間のことが、今でも忘れられない。
それ以来、わたしはヒコーキ耳を観察し続けている。
いつ出るのか。何が引き金になるのか。嬉しいときにも出るのか、嫌なときにだけ出るのか。
気づけばかなりのデータが頭の中に蓄積されていた。
今回はそれを、できる限り正確に報告したいと思う。
そもそもヒコーキ耳とは何か
念のため定義しておく。
ヒコーキ耳とは、犬の耳が左右にぺたんと倒れて横に広がった状態のことだ。
飛行機の翼のように見えることからそう呼ばれている。
柴犬は普段耳がぴんと立っているため、ヒコーキ耳になったときのギャップが特に大きく、見る者に強烈なインパクトを与える。
一般的には「不安・恐怖・困惑」の表れとして語られることが多いが、わたしが銀太を観察してきた結論はまったく違う。
ヒコーキ耳は、感情が動いたときに出る。嬉しくても、嫌でも。
🐾【嬉しい系】銀太のヒコーキ耳が出る瞬間
実はヒコーキ耳の半分以上は、嬉しいときに出ている。
これを最初に書かないと、銀太に失礼な気がして仕方がない。
① 帰宅したとき
これが一番「出る」瞬間だ。
玄関のドアを開けた瞬間、銀太がこちらを見てヒコーキ耳になる。爆発的に喜ぶわけではない。
しっぽが小さく揺れて、耳がぺたんと倒れる。
あの静かで控えめな歓迎が、わたしには十分すぎるくらいだ。
疲れて帰ってきた日も、あの耳を見ると「帰ってきてよかった」と思う。
② 大好きな人に会ったとき
銀太が「この人は好きだ」と思っている相手に会うと、ヒコーキ耳が出る。
妻が帰宅したとき、久しぶりに来た家族と目が合ったとき。
普段のツンとした態度が嘘のように、耳がぺたんと倒れてしっぽが揺れる。
銀太が誰を好きなのかは、ヒコーキ耳を見ていればだいたいわかる。
③ 散歩の準備が始まったとき
リードを手に取った瞬間に出る。
わたしが玄関の方向に歩き始めただけで出ることもある。
「散歩だ!」という嬉しさが全身に出ているパターンで、このときは耳だけでなく体全体が前のめりになっている。
耳がぺたんと倒れているのに体が前に出ているアンバランスさが、毎回おかしくてたまらない。
④ おやつを出したとき
「おやつ」という単語を言っただけで出ることもある。
袋の音がしただけで出ることもある。
このときのヒコーキ耳は他のパターンと少し違っていて、体全体がそわそわしている。
耳だけでなく全身で「早くほしい」を表現しているのが伝わってくる。
⑤ 撫でられて気持ちいいとき
普段は触られることが得意ではない銀太でも、気分が乗っているときは撫でられながらヒコーキ耳になることがある。
目が少し細くなって、体の力が抜けている。
このときの銀太が一番穏やかに見える。
😅【困惑系】銀太のヒコーキ耳が出る瞬間
続いて、こちらが一般的に知られているパターンだ。
⑥ シャンプーの気配を察知したとき
タオルを出しただけで出ることもある。
シャンプーボトルを手に取っただけで出ることもある。
浴室のドアを開けた瞬間に出ることもある。
銀太はシャンプーに関するあらゆる前兆を察知して、速やかにヒコーキ耳になる。
嬉しい系と比べると、このときは体が固まっていてしっぽが下がり気味だ。
「わかっている。でも納得はしていない」という感情が全身に出ている。
⑦ 爪切りを出したとき
シャンプーに次いで高頻度。
爪切りをケースから出す「カチャ」という音だけで発動することがある。
わたしは最近、爪切りを極力音を立てずに取り出すようになった。効果はない。
⑧ 知らない犬と遭遇したとき
散歩中、向こうから犬が近づいてくるとき。
特に大型犬の場合、まだ10メートル以上離れている段階でヒコーキ耳が発動する。
不安というより「とりあえず警戒しておく」という意思表示に見える。
相手が小型犬の場合は発動しないこともあり、銀太なりのサイズ判定がある模様だ。
⑨ 大きな音がしたとき
雷・花火・突発的な工事音。
このときのヒコーキ耳は持続時間が長く、音が止んでも5〜10分はヒコーキ状態が続く。
「まだ信用していない」という顔をしながらじっとしている。
⑩ カメラを向けたとき
これが最も謎のパターンだ。
スマホのカメラを向けると、なぜかヒコーキ耳になる。
レンズが怖いのか、シャッター音が嫌なのか、理由はいまだに不明だ。
おかげで銀太のヒコーキ耳写真は大量にある。
ヒコーキ耳発生の法則、まとめてみた

10パターンの観察から導き出した、銀太のヒコーキ耳発生の法則を整理する。
法則①:嬉しいときにも、嫌なときにも出る
これが最大の発見だ。ヒコーキ耳は「困惑・不安」だけのサインではない。帰宅・おやつ・散歩。銀太は嬉しくても耳をぺたんと倒す。
ヒコーキ耳は感情の「種類」ではなく「大きさ」を表しているのかもしれない。
法則②:嬉しい系は体も動く・困惑系は体が固まる
嬉しい系のヒコーキ耳はしっぽが揺れて体も動いている。困惑系のヒコーキ耳は体が固まって動かない。この違いで銀太の気持ちをある程度読み取れるようになってきた。
法則③:持続時間は「どのくらい感情が強いか」に比例する
帰宅時のヒコーキ耳はわりと早く戻る。雷のあとは長い。シャンプー中はずっとヒコーキのままだ。感情の強さが耳の持続時間に反映されている。
法則④:ヒコーキ耳でも、ちゃんと向き合ってくれる
嬉しくてヒコーキ耳でも、嫌でヒコーキ耳でも、銀太は最終的にちゃんとそこにいてくれる。シャンプーを嫌がりながらも洗わせてくれるし、疲れて帰った夜も玄関で出迎えてくれる。
ヒコーキ耳は銀太なりの「感情の正直な表れ」だ。嬉しいことも嫌なことも、あの耳が教えてくれる。
まとめに代えて
今日、仕事から帰ってきたらまた出た。
玄関のドアを開けた瞬間、銀太の耳がぺたんと倒れた。
しっぽが小さく揺れた。それだけだった。
ヒコーキ耳は嬉しさのサインでもあり、困惑のサインでもある。
嫌なことへの抵抗でもあり、好きな人への歓迎でもある。
どちらも本物の銀太の感情だ。
あの耳が倒れるたびに、わたしは銀太の気持ちを少しだけ受け取っている気がする。
言葉がなくても、耳が教えてくれる。
それだけで、十分だ。
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