
夜勤明けで帰ってきた明け方のことです。
リビングに入ると、銀太がソファの端でくるりと丸まっていました。
いつも通り。特に何もない、いつもの朝です。
シャワーを浴びて、缶ビールを一本開けて、銀太の隣に腰を下ろす。
銀太はちらっとこちらを見て、また目を閉じました。
「お帰り」でも「遅かったな」でもなく、ただ「いる」という感じ。それが銀太です。
そのとき銀太が、大きなあくびをしました。
口を限界まで開けて、目を細めて、小さく震えるようなやつ。
ふわぁ、という感じの、堂々としたあくびです。
そしてわたしはその3秒後に、自分もあくびをしていました。
つられた。完全につられた。
あくびって、移るものなのか

人間同士でもあくびは移ります。これはよく知られた話で、共感能力と関係があるとも言われています。
相手のあくびを見て、自分も眠くなる。それが「あくびの伝染」です。
では、犬のあくびは人に移るのか。
移ります。少なくとも、わたしには移りました。
銀太があくびをして、わたしがつられた。これは否定しようのない事実です。
調べてみると、犬のあくびが人に移ることはあるという話があります。
しかも、見知らぬ犬よりも、一緒に暮らしている犬のあくびのほうが移りやすいという研究もあるようです。
つまり、あくびが移るということは、それだけ「共感している」「絆がある」ということの証拠かもしれない。
そう考えると、銀太のあくびにつられたあの瞬間は、なんだか少し特別なものに思えてきます。
銀太のあくびは豪快だ
そもそも、銀太のあくびはよく目立ちます。
遠慮というものがない。口の端まで限界まで開けて、目がじわっと潤んで、全身で「眠い」を表現する。
人前でも気にしない。むしろ堂々としている。
朝起きたとき、散歩から帰ったとき、ごはんを食べたあと、なんとなく暇なとき。
銀太はわりとよくあくびをします。
そのたびに「お、あくびした」と思う。なぜか微笑ましい。
犬のあくびにはカーミングシグナルという意味もあるそうです。
「緊張をほぐしたい」「落ち着こうとしている」というサイン。
でも銀太の場合、たいていはただ眠いだけのように見えます。
何も考えていなさそうな、純粋に眠いだけのあくびです。それがまた、いい。
あくびが移った夜のこと
あの朝、わたしは銀太のあくびにつられてから、しばらくその場にぼうっとしていました。
夜勤明けで体は疲れているし、頭もぼんやりしている。
缶ビールを半分飲んだところで眠気がきていたのは確かです。
だから「ただの眠気だ」と言われれば、そうかもしれない。
でも、銀太のあくびを見てからつられたのは事実で、そのタイミングで「あ、こいつと同じ時間にいるな」と思ったのも事実です。
同じ部屋で、同時に、同じタイミングであくびをする。言葉も、長い会話も、何もなくていい。
ただそこにいて、同じ空気を吸って、同じように眠くなっている。
それだけのことなのに、なんとなく悪くないと思いました。
銀太はその後すぐ目を閉じて、また丸まりました。
わたしも缶ビールを飲み干して、そのまましばらく銀太の隣にいました。
特に何もしない時間でしたが、それがちょうどよかった。
まとめ|小さな共感が、ちゃんとある
銀太はツンデレです。呼んでも来ないし、撫でようとすると逃げるし、こちらの都合には基本的に興味がない。
でも、同じ夜に、同じタイミングであくびをする。
これを「共感」と呼んでいいのかどうかはわかりません。
科学的にどうなのかも、正確なところはよくわかりません。
ただ、あくびが移るというのは、少なくともお互いの存在をどこかで感じ取っているからではないか、と思います。
言葉がなくても、長い会話がなくても、同じ空気の中にいる。
それだけで、なんとなく伝わっているものがある。
銀太との暮らしで気づくことは、だいたいそういう「小さなこと」ばかりです。
今夜も銀太はどこかであくびをするでしょう。わたしもたぶん、またつられます。
それでいいと思っています。
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