
休日の朝。目覚まし時計よりも正確な「柴犬の鼻先タッチ」で目が覚める。
…いや、正確には“クンクン攻撃”だ。
鼻息で頬をくすぐられ、仕方なく布団から這い出す。

時計を見ればまだ5時。
「なぁ、今日は休みなんだぞ?」と心の中で呟くが、わが相棒、柴犬の銀太(以下、銀太と呼ばせてもらう。)はおかまいなし。
銀太を連れて歩くと、早起きの近所の人たちから「あら〜かわいい!」「今日も元気ね!」と声がかかる。

ただし、その視線のほぼ100%は銀太に注がれている。
わたしはあくまで添え物である。
いわば、銀太の“移動式マネージャー”だ。
でも正直、悪い気はしない。
だって、銀太を連れているだけで自分まで人気者になった気がするから。
これを「柴犬効果」と呼んでおこう。

公園に着けば、銀太は真剣な表情でクンクン。
「ふむふむ、この場所は昨日と匂いが違うな…」といった調子で捜査が始まる。
こちらはただ立っているだけなのに、妙に“相棒感”を味わえる。
しかし次の瞬間、全速力で芝生にダイブ!背中じょりじょり。

――このギャップ。
まじめ顔からのお茶目行動。
この振り幅も柴犬の魅力のひとつである。

昼過ぎ。ようやくソファでコーヒー片手にまどろんでいたら、銀太がボールを咥えて登場。
「遊ぼうぜ」の無言の圧。
知らんぷりを決めても、前足で“チョイチョイ”されると抗えない。

「マジか!?」と言いつつ、結局はボールを投げてしまう。
休日なのに、なぜか平日より忙しいのは気のせいだろうか。

夕方の散歩の帰り道。銀太がふと立ち止まり、こちらを振り返ってニカッと笑ったように見えた。
「今日もありがとう」

――そう言われた気がして胸がじんわり。
いや、実際はただ「おやつまだ?」という顔かもしれないが…まぁいい。
おじさんはそういう風に解釈して生きていくのだ。

こうして一日を振り返ると、休日の主役はやっぱり銀太だった。
わたしは遊び相手であり、マネージャーであり、ソファから追い出される同居人。
でも――ふと気づく。

銀太と過ごす時間がなかったら、私はきっともっと退屈で、もっと孤独な休日を送っていたはずだ。
夕暮れに見せたあの小さな笑顔。
もしかしたら、私が銀太を守っているのではなく、銀太が私に日々の”癒し”を与えてくれているのかもしれない。
